弁護士 杉浦 恵一
ある人にお金を貸していて、返済されないうちにその方が亡くなってしまう、ということもあり得ます。このような場合に、亡くなった方に貸していたお金は返してもらえるのでしょうか。
まず前提として、お金を借りていた方が亡くなったとしても、亡くなったというだけで貸金債権が消滅するわけではありません。
民法882条では、「相続は、死亡によって開始する。」と定められています。つまり、人が亡くなると当然に相続が始まることになります。
また民法896条では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定められています。 そのため、相続人は、権利だけでなく義務(返済義務、債務)も承継することになりますので、亡くなった人に対してお金を貸していた方は、その相続人に対して返済するように求めることが可能です。 一切を承継することになっていますので(※一身専属のものを除く)、利息や返済期限などの条件もそのまま引き継ぐことになります。
ただし、相続人が複数人いる場合には、1人の相続人に対して全額の返済を求められるとは限りません。 民法899条では、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と定められています。ここでは「義務」についても、相続分に応じて承継するとされています。
先例として最高裁判所の昭和34年6月19日判決でも、「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、 法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべき」と判示されています。
そのため、連帯債務や連帯保証なども含めて、可分債務(分けることが可能である義務・債務)は、相続の開始とともに当然に相続分によって分割され、各相続人が相続分に応じて債務者になる、ということになります。 この点からすれば、原則として相続分以上に債務を負担する必要はない、ということになります。
では、具体的にどのような流れで亡くなった人の相続人に請求をするのでしょうか。
請求をするためには、まずは相続人を探す必要があります。一般的には、亡くなった人の戸籍から相続人がいるかどうかを探していきます。
その上で、相続人がいればその住所・連絡先も調べる必要があります。
相続人は、その相続分に応じて義務=債務・借金を承継することは、先にご説明したとおりです。
そうしますと、単に相続人であることを特定するだけではなく、その相続人の相続分がどのような割合なのかも確認する必要があります。 そのような確認のためには結局、亡くなった人の相続人全員を調べなければならない可能性があります。
例えば、配偶者の相続分は、その他の相続人の属性(子、直系尊属、兄弟姉妹のいずれか)によって割合が変わってきます(民法900条参照)。 配偶者と子が相続人であれば配偶者の相続分は2分の1ですが、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合には配偶者の相続分は4分の3になりますので、割合が変わってきます。
また、苦労して相続人を探し、相続分を特定したとしても、それによって必ずしも請求ができるとは限りません。 先に説明しましたように、死亡によって相続は当然に発生し、相続人はその相続分に応じて義務も承継します。
しかし相続では「相続放棄」という制度があります。相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内(※期間伸長をされる場合あり)であれば、相続放棄をすることが可能です。
相続放棄をしますと、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみな」されます(民法939条)。
そのため、被相続人と疎遠になっているような相続人は、債権者から請求をされて初めて相続したことを知り、そこから相続放棄の手続きをとる、というパターンもよく見られます。
更に例外的に、被相続人の相続開始を知ってから3か月以上経っていても、相続放棄が認められる場合もあります。
最高裁判所 昭和59年4月27日判決では、相続人が相続をしたことから3か月(などの熟慮期間内)に相続放棄をしなかった場合であっても、 その期間内に相続放棄や限定承認をしなかった理由が、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との交際状態その他諸般の状況からみて、 その相続人に対して相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人がそのように(被相続人に相続財産が全く存在しないと)信じることについて相当な理由があると認められるときは、 熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時または通常それを認識しうべき時から起算する、としています。
そのため、このような最高裁判所の判決もあることから、相続放棄等のための熟慮期間が進行した後に相続人に対して請求をしても、その後の相続放棄が認められる可能性もあります。
遺言がある場合の例外などもありますが、色々な調査や準備が必要なことを考えますと、亡くなってから相続人に返金等の請求をするのは、それなりに困難な場合も想定する必要がありそうです。
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