弁護士 杉浦恵一
相続が発生した際には、まずは被相続人の遺産がどの程度あるかを調べる必要があります。
また、遺産分割の際には、特別受益(婚姻もしくは養子縁組のためにもしくは生計の資本として受けた贈与等、民法903条)が問題になることがあります。
遺産の中に預金がある場合、生前や相続開始後に引き出されたお金がどうなるか、といった問題もありますが、預金に関する論点として、名義預金・借名預金の問題があります。
そもそも名義預金・借名預金がどのようなものかを説明しますと、形式的・表面的にはある人の名義で預金されているが、実際にお金を出している人は別人で、名義だけ借りているけれども、その預金の実際の所有者・管理者はお金を出した人である、といった預金のことを指します。
あくまで借りているだけですから、名義を使われている本人は、そのような口座があること自体を知らない可能性もあります。
かつては、金融機関の本人確認手続も緩く、家族であれば、別の家族名義の預金を作成することも比較的簡単であったようです。
親が子の名義の預金を作成することは、子が未成年の場合には、今でも可能です。
このような名義預金・借名預金は、相続が開始された後で、被相続人の名義ではない別の親族名義の通帳が出てきた際に、問題になることがおおいかと思われます。
相続の開始後、他人名義の通帳が出て来た場合、そもそもそれが遺産に当たるかどうかの問題になってきます。
被相続人が、自分のお金だと思って貯めていたら、それは遺産になる可能性が高くなりそうです。逆に、その名義の人に贈与する趣旨で貯めていたとしたら、名義人への贈与になる可能性もあります(贈与契約が証明できた場合)。
よくある争いとして、自分の名義の通帳があった人は、その預金は贈与でもらったと主張し、それ以外の相続人は、被相続人がお金を出したので、被相続人の遺産だと主張する場合があります。
このような争いになってしまった場合、法的に決着をつけるとすれば、まずは「遺産確認の訴え」を起こすことになります。
この裁判は、裁判所に対して、遺産かどうか争いになっている財産について、それが遺産であることを確認してもらい、遺産分割等の前提にすることを目的とします。
いわば遺産分割の前哨戦ですが、それなりの手間と時間がかかってしまいます。
このような名義預金・借名預金は、どうしても争いの種になってしまいます。
最近は、金融機関の本人確認手続が厳格化されていますので、簡単には他人名義の預金を作成することはできないと思われますが、子供が未成年のうちに親が作った口座が、そのまま残っていた場合、後に名義預金・借名預金として使われてしまう可能性もあります。
個人的には、紛争の種になることが多いと思われますのでお勧めできませんが、他人名義の口座で資産を管理する際には、将来、その口座をどうするかをあわせて考える必要があるでしょう。
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