多くの会社では退職金について規定があることと思います。退職金は賃金の後払い的な性質と、これまでの功労に報いるための報償であるという性質を併せ持つものとして支払われるものです。そのため、通常は算定の基礎額に勤続年数に応じた支給率を乗じて算定されることが多くなっています。
退職金は、会社に勤めていれば当然に支払われるものではなく、労働協約や就業規則などで支給基準が定められ、会社が支払うことと決められている場合には、賃金として会社に支払い義務が生じる性質のものです。よって、退職金の内容はその労働協約や就業規則によって決まるのです。社員が死亡したことによって退職した場合に支払われる退職金が死亡退職金ですが、このような規定が置かれている会社は多くあります。
相続人が、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことを相続放棄といいます。相続によって、相続人は、被相続人の預金や所有する不動産などプラスの財産のみならず借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。被相続人にプラスの財産よりマイナスの財産の方が多いことが明らかな場合などには、相続放棄が選択されることがあります。相続放棄をすれば、その人は、初めから相続人とならなかったものとみなされることになります。
しかし、気を付けなくてはならないのが、相続放棄がどんな場合でもできるわけではない点です。相続財産の全部または一部を処分した場合(民法921条1項)、自己のために相続が発生したことを知ってから3か月の熟慮期間を経過したとき(同2項)、相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(同3項)にはもはや相続放棄はできないのです。
相続財産の一部を処分した場合は、相続放棄できないとすると、死亡退職金を受け取ってしまえば、そのお金を自分のものとしたことになりもはや相続放棄ができないのでしょうか。
相続財産を処分したときに、相続放棄ができなくなるのは、その処分したことにより相続財産に関わる人たちはその相続人が相続放棄しないと信じ、それを前提に行動することになるので、その信頼を保護する必要があるからです。そうであるとすると、処分した財産が相続財産すなわち被相続人の死亡時に、被相続人自身に帰属した財産である場合のみ相続放棄が許されなくなるのです。
では、死亡退職金は相続財産なのでしょうか。
すでに述べたように、死亡退職金は、労働協約や就業規則に規定がある場合にその支払いが会社に義務付けられるものです。よって、どのような場合に、誰に支払われるかも、それらの規定を見て判断することになります。
死亡退職金を支払うべきものについて、会社の退職金規定において民法の相続順位と異なる定めを設けている場合には、死亡退職金の受給権は被相続人の相続財産に属さず、受給権者の固有の権利として取得できるとされています(最判昭和55年11月27日)。
一方で、被相続人自身に支払われるような規定があればこれは相続財産に含まれることになるので、相続人のひとりがこれを受け取ってしまえば、もはや相続放棄はできなくなると考えられます。
この判例では、退職金支給規定により、受給権者の範囲および順位について、民法の規定する相続人の順位決定の原則と著しく異なった定め方がされていることから、退職金支給規定は、被相続人の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたものであると判断しています。
その上で、死亡退職金の受給権者である遺族は、相続人としてではなく、退職金支給程の定めにより、直接これを自己固有の権利として取得するので、死亡退職金の受給権は相続財産に属さないと判断しているのです。
つまり、たとえば、死亡退職金の受給者が第一順位が「配偶者」とされ、配偶者がなかった場合のみ第二順位の「子」に支給されると規定があれば、これは民法とは異なる規定ですので、死亡退職金は相続財産とならず、これを受け取ったからと言って相続放棄ができなくなることはありません。
退職金の支給規定が無い場合や、支給規定があっても、「死亡退職金は相続財産となる」と読めるような記載の仕方がされている場合、そのほか、単に「遺族」や「相続人」に支給するという文言があるだけの場合などは、相続財産になるのか、それとも固有の財産になるのかは判断が分かれています。
昭和62年3月3日の最高裁判決では、死亡退職金の支給規定のない財団法人が、死亡した理事長に対して退職金を支給するとの決定をした上で、理事長の配偶者にその退職金を支払った場合に、その死亡退職金が相続財産に属さないと判断しています。
しかし、一方で、死亡退職金の支給について、法令による定めも、退職金支給規定による定めもない場合、その死亡退職金が相続財産に含まれると判断されることもあります。その場合には、相続人の一人がこれを受け取ってしまうと、相続放棄はできないことになります。
まずは、きちんと死亡退職金支給規定を確認し、専門家にご相談されることをお勧めいたします。
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