遺留分侵害額請求権も財産的な権利の一種ではあります。
それでは、遺留分侵害額請求権を他者に譲り渡すことができるのでしょうか。
時間的な区分として、相続が開始する前と、開始した後で別々に考えることができます。
相続が開始する前は、そもそも相続人としての地位は未確定で、法的な保護を受けるものではないと解釈されています。
これは、相続は開始するまで、相続人の範囲や遺産の範囲が決まらず、様々な条件の変動があることと、相続開始前の財産は所有者の者であり、自由に処分することができる、という考えから来ているようです。
遺留分侵害額請求権も、あくまで相続人としての地位と同様に考えられますので、実際に相続が開始されるまではその権利が発生するか否かという点から不安定な状態に置かれています。
そのため、相続が開始する前には、そもそも遺留分という権利自体が具体的に発生しているわけではないため、その権利を譲り渡すこともできないと考えられています。
相続が開始されれば、遺留分は、それまでの生前贈与や相続開始時の財産額、遺言の内容等によって、具体的に定まることになります。
そのため、遺留分侵害額請求権は、このような具体的な財産権として考えられる以上、他人に譲り渡すことができると考えられます。
ただし、相続が開始した後も、2段階に区分して考えることができます。
まず、遺留分侵害額請求の意思表示を行う前の段階では、財産権としての遺留分侵害額請求権があると考えられますので、この遺留分侵害額請求権を譲り渡すことが考えられます。
しかし、遺留分侵害額請求の通知を発するなどして、遺留分侵害額請求の意思を表示した後は、異なった考え方ができます。
遺留分侵害額請求の意思を表示した時点で、この意思表示は完結し、結果として、不動産や債権、有価証券、動産といった個々の財産の持分を取得すると考えられています。
そうしますと、遺留分侵害額請求の意思表示をした後は、抽象的に遺留分侵害額請求権という権利は消滅し、遺留分侵害額請求権を行使した結果としての個々の財産に対する持分権や、持分を引き渡すように求める権利が残りますので、このような個別の権利(所有権等)を譲り渡すことになります。
このように、遺留分侵害額請求権を譲渡できるかどうかは、まず相続が開始される前か後かで区分できます。
また、相続が開始された後でも、遺留分侵害額請求の意思表示がなされる前と後で、何を譲り渡すことができるか、譲り渡す対象が違ってきます。
そして、最も注意しなければならない点は、遺留分侵害額請求権や、その意思表示をした後の持分権を譲り渡すことができると言っても、非常に単純な場合の除いて、実際にどの程度の割合で請求権があるか、減殺できたのか、取り戻すことができた財産の額はいくらか、という点は、非常に判断しにくいということです。
最終的に裁判や和解で決まらなければ、簡単には確定できませんので、遺留分侵害額請求権が譲り渡せるから、それを売買しようと思ったところで、どの程度の評価額をつけるかは非常に難しい判断となってきます。
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