弁護士 杉浦 恵一
民法のうち相続関連の部分が改正され、今年の7月から施行される条文も出てきました。
この法改正に関連して、2019年9月21日の日本経済新聞に、遺留分の規定が、改正された相続関連法規によって思わぬ課税が生じる可能性があり、注意を促す記事が掲載されていました。原則として金銭で請求されるように一本化されました。これまでは、遺留分減殺の請求がなされると、現物で返還することが原則とされていました。
そのため例えば、遺産が自宅の土地建物のみであり、相続人が子2人のみのときに、遺産の土地建物が子のうちの一人に遺言等で取得させられていた場合、何ももらえなかった子の遺留分は¼ですが、この子は、原則として土地建物の¼の持ち分を渡すように請求することになっておりました。
もちろん、合意できれば金銭で支払うこともできますし、遺留分減殺の請求をされる方が、現物で返還するのではなく、それに代わって金銭で返還したいということであれば、価額賠償(価格弁償)の抗弁を使い、金銭で支払うこともできました。
ただし、共有になった場合には、この共有状態をどのように解決するのかという点が問題にはなっていました。
この遺留分の解決方法について、改正された相続関係の民法では、原則として、現物で返還するのではなく、遺留分を請求する側は金銭に換算して請求することになりました。
しかしながら、上で挙げた例のように、遺産が不動産しかなく、金銭では支払えないという場合も出てきそうです。
このような場合に、結果として、改正前の原則と同じく、現物(土地建物の持ち分)を遺留分侵害額請求をした子に名義変更して、解決するということも考えられます。
このような場合、金銭での解決が前提になりますと、税金が課税される可能性があります。
金銭の代わりに物を渡すことを、民法では「代物弁済」といいます。債権者の承諾を得て代物弁済がありますと、民法では、返済をしたことと同一の効果があると規定されています。
しかし、税法では、物が動くと課税される可能性が出てきます。
代物弁済ですが、例えば土地建物が2,000万円の価値があったと仮定しますと、¼では500万円の価値があることになり、兄弟姉妹間で500万円を渡したのと同じ経済的な意味があります。
もともと支払い義務がありますので、贈与ではありませんが、この代物弁済の場合、渡した側に譲渡所得税が発生する可能性があります。
これは、上に挙げた例では、土地建物の¼を500万円で売って、その代金を他の兄弟姉妹に渡した場合と同じような経済的な状態になりますので、土地建物の持ち分を売って500万円の利益を得た場合と同じように考え、この500万円の利益に譲渡所得税が課されることがあるようです。
譲渡所得税の場合、自宅の土地建物を取得した際の購入価格が分かっていれば、一定の部分を取得費として売買代金相当額から差し引くことができる可能性もありますので、そういった資料(売買契約書、家を建てる際の請負契約書、領収書等)がないかどうか確認してみた方がいいでしょう。
民法上の問題は、原則として合意が優先しますので、合意があれば大抵の問題は解決されます。
しかし、税金の問題は、国(税務署)との間の問題になりますし、民法上の権利義務・法律関係の変化があったことを前提に課税されますので、何らかの解決を検討する場合には、税金の問題にも注意した方がいいでしょう。
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