亡くなられた方(以下,「被相続人」といいます。)の配偶者,子,直系尊属(父母,祖父母,養父母)は,遺留分権を持っています。
遺留分権とは,被相続人の遺産の法定相続分の半分(遺留分権者が直系尊属の場合は3分の1)を保証する権利です。
そのため,例えば,被相続人がある一人に多額の遺産を相続させる内容の遺言を遺した際には,その一人に対し,遺留分権者は,自己の遺留分を請求することができます。
それでは,具体的な遺留分額はどのように計算するのでしょうか。
答えとしては非常に簡単で,
遺留分算定の基礎となる財産額×法定相続分×2分の1
(遺留分権者が直系尊属の場合は3分の1)
で遺留分額を算定することが出来ます。
以上のように,遺留分額算定の計算式は非常に単純です。しかし,実際に遺留分額を計算するとなると,「遺留分算定の基礎となる財産額」がいくらになるのかが難しい問題として立ちはだかってきます。
遺留分算定の基礎となる財産額の算定式は以下のとおりです。
遺留分算定の基礎となる財産額=
被相続人が相続開始時に有していた財産の価額+贈与財産の価額-相続債務額
以上の算定式のうち,特に問題になるのは「贈与財産の価額」です。
この「贈与財産」には,原則,法定相続人への贈与は含まれるとされています(最判平成10年3月24日判時1638・82頁)。改正法では、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にされたものに限り遺留分の基礎財産に含めることとなります(新民法1043条)。
他方,法定相続人でない者への贈与は,原則,被相続人の死亡から1年前になされた贈与に限り,「贈与財産」に含まれます(民法1030条前段)。
但し,被相続人の死亡の1年前より過去になされた贈与であっても,遺留分権者に損害を加えることを知ってなされた贈与は「贈与財産」に含まれます(民法1030条後段)。
仮に,『被相続人から法定相続人出ない人への贈与』が,被相続人の死亡の1年前より過去になされた場合,遺留分算定の基礎となる財産額の判定にあたっては,その贈与が遺留分権者に損害を加えることを知ってなされた贈与かを判断する必要があります。
この遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は,一義的に明らかではないため,裁判において数多く争われています。
裁判例では,
が一つの基準として示されています(大判昭和11年6月17日民集15巻1246頁他)。
例えば,被相続人の遺産の大部分が法定相続人以外の者に贈与された場合には,(ア)に該当します。
また,贈与当時,被相続人が高齢で,仕事をしていないため,贈与後に財産が大幅に増加する見込みがない場合には,(イ)に該当すると考えられます。
他方,(イ)はあくまでも予見の問題なので,被相続人が贈与当時,壮健で,仕事や事業を通じて資産を増加させる見込みがあるときには,実際には資産が増加させることが出来なかったとしても,(イ)に該当しないことになります。
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