相続に強い名古屋市の弁護士の遺産分割,遺留分,遺言,相続税の相談｜愛知県

Q.父が死亡し、父の財産を管理していた兄が遺産を開示しました。思ったよりも少なく、本当にこれだけしかないのか疑問です。また、父は晩年判断能力がなかったため、兄が父の預金を勝手に使っていたようです。どうやって調べたらよいですか？

債権は遺産分割を経ることなく、法定相続分に応じて当然に相続人に帰属します（最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁）。兄が勝手に預金を使っていた場合、お父様は兄に対して、預金分の金額の返還を請求することができます。それを、ご相談者様はを法定相続分で相続した扱いになります。

では、どのようにお兄さんが勝手に預金を使っているかどうかを調査すればよいのでしょうか？
考えられるのは、預金口座の取引経過の開示を銀行に求めることです。この開示にあたって、相続人単独で請求できるか、ということが問題になります。

1. 従来の扱い

従来銀行は、預金の有無や残高については、相続人が戸籍謄本などを提出して、相続人であることの確認を取れたなら、開示していました。
それに対して、預金口座の取引経過については、相続人全員の請求がない限り、開示に応じていませんでした。
したがって、従来は、今回のようなケースでは、お兄さんが預金を勝手に利用しているかどうか、知ることはできませんでした。

2. 最高裁判決

しかし、近時非常に重要な最高裁判決が下されました。最高裁の平成21年1月22日判決です（民集63巻1号228頁）。
この判例は「金融機関は，預金契約に基づき，預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。そして，預金者が死亡した場合，その共同相続人の一人は，預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが，これとは別に，共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき，被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる（同法264条，252条ただし書）というべきであり，他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。」と判示しています。
つまり、共同相続人のうちの一人が単独で預金口座の取引経過を請求することが判例上認められたのです。
銀行実務も現在では共同相続人の一人による取引経過請求を認めるようになっています。
例外はないのでしょうか？同判決は、取引経過の開示請求が権利の濫用（民法1条3項）に当たる場合もあるとしています（同判決では、権利濫用に当たらないという判断でした）。どのような場合に権利の濫用に当たるかは、今後の判例を待つほかありません。しかし、一般条項ですので、よほどのことがない限り、権利濫用に当たることはないと思われます（たとえば、被相続人であるお父さんの生前の全取引経過を請求するような場合などが考えられます）。

今回のケースでも、ご相談者様単独で、銀行に対して取引経過の開示請求をすることができます。ただし、それによりお兄さんが預金を勝手に利用しているか、銀行の出入金の履歴だけから分かるかという問題は残ります。