弁護士 杉浦恵一
相続の際に、遺産の中に賃貸物件(収益物件)が含まれていることがあります。
近時では、ワンルームマンションの1部屋単位の投資もありますので、こういった賃貸物件(収益物件)が遺産に含まれることも増えてくるかもしれません。
建物など不動産を賃貸借する際には、一般的に敷金・保証金といった将来返還する必要のある金銭を受け取っている可能性があります。
最近では、敷金のない物件も増えているようですが、やはり退去時の原状回復費用の担保として、敷金・保証金といった名目で金銭を預かっている場合の方が多いでしょう。
改正民法では、その605条の2の第4項で、
第一項または第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び622条の2第一項の規定による同項に規定する金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
と定められました。
つまり、敷金を差し入れた後、賃貸物件が売買などで譲り渡された場合には、
ということになります。
他方で、相続における負債の扱いは、相続人間で誰かが負債を引き受けるという合意でもない限り、法定相続分によって分割されることが一般的な考え、取り扱いです。
相続人の間で合意したり、遺言で負債を負う相続人を決めるなどして、変更することもあり得ますが、債権者は相続人に対して、法定相続分で請求できると解釈されています。
ただし、敷金も賃貸物件の賃貸借が終了し、明渡をする際に返還する義務が発生しますので、負債の一種と言えます。
では、賃貸物件を相続し、敷金返還の債務も相続した場合、これは賃貸人(=賃貸物件を相続した相続人)が全部を負担するのか、相続人が法定相続分で返還義務を負うのか、どちらでしょうか。
この点について、大阪高等裁判所の令和1年12月26日判決が参考になります。
この事件は、
大阪市内に所在する建物の賃借人であった控訴人が、賃貸人に対して敷金として3000万円を差し入れていました。
しかし、賃貸人が死亡してしまいました。
そのため、死亡した賃貸人の相続人に対して、返還を求めました。
具体的には、「法定相続分に応じて敷金の返還債務を分割して相続した」として、「敷金返還額のうち法定相続分で按分した額」を請求した。
という事件でした。
この事件で、裁判所は、
敷金は、賃貸人が『賃貸借契約』に基づいて賃借人に対して取得する債権を担保するために差し入れされるものである。
したがって、敷金に関する法律関係は賃貸借契約と密接に関連し、「賃貸借契約に随伴すべきもの」と解される
と解釈基準を示しました。
そして、賃貸人が変更した場合に、
賃借人が旧賃貸人から敷金の返還を受けた上で、新賃貸人に改めて敷金を差し入れる労力と、
旧賃貸人の無資力の危険性から賃借人を保護する必要性
を考慮すると、
賃貸人の地位が承継された場合には、敷金に関する法律関係は新賃貸人に当然に承継されるものと解される
と述べました。
裁判所は、その上で、
・敷金が担保となっている性質
・賃借人を保護する必要性
は、
で何ら変わるわけではない
としました。
この理由から、
相続で賃貸物件を承継した場合であっても、当然に相続人間で敷金返還債務が分割されるのではない。
「賃貸物件を相続した相続人」が敷金の返還債務を負う
(つまり賃貸物件を相続した相続人が、単独で敷金返還債務の全部を承継する)
と判断しました。
なお、この事件の判決では、
「相続人間で敷金返還債務について承継割合を定めた具体的な協議がされた」
とは認定されておりません。
加えて、
「敷金返還債務を法定相続分に従って分割承継するという合意が成立した」
とも認められないと言及されています。
このことから、
相続人間で敷金返還債務を、賃貸物件を相続した相続人が単独で承継するのではなく、「相続人間で分割承継する」という遺産分割協議が成立していた
といった場合には、別に理解する余地も残されているようです。
このように、相続であっても賃貸物件や敷金返還債務の場合には、負担が大きくなる相続人も出てくる可能性がありますので、注意が必要でしょう。
「敷金が高すぎて返還できない」「賃貸物件を継がないのに、敷金返還の分割を請求された」など、お悩みのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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