遺言の中で、愛人が全額を受け取るように書かれていたものの、その愛人が相続を放棄した場合は、通常通り、亡くなった人の家族など法定相続人が相続する権利を有するようになりますか?
遺言の中で、愛人が全額を受け取れるようにと書かれていたとのことですが、愛人は法定相続人ではありませんので、民法的な意味で相続することはできません。
かかる場合、愛人に全額を遺贈したということになります。
遺贈を受けた人を受遺者といいますが、受遺者は、遺言者の死亡後はいつでも遺贈を放棄できます。そして、放棄の効果は相続時にさかのぼり、放棄された財産は、共同相続人全員の共有財産となります(民法986条)。
なお、愛人が遺贈を放棄されたということですが、適切に放棄がされているかどうかにご注意ください。
すなわち、遺贈には、不動産や金銭等、特定の財産を遺贈の対象とする「特定遺贈」と、遺産の全部又は一定割合を遺贈の対象とする「包括遺贈」とがありますが、この遺贈が特定遺贈に当たるのか、包括遺贈に当たるのかによって、放棄の手続きが異なってきます。
今回、どちらの遺贈に当たるのか具体的な事情は分かりませんが、特定遺贈であった場合、遺言者の死亡後、いつでも放棄することができます(民法986条1項)。
他方、今回の遺贈が包括遺贈であった場合には、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ことになるので、包括遺贈の放棄も相続放棄と同一の手続きで行う必要があり、自己のために遺贈の効力が生じたことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で放棄の申述(民法915条)をする必要があります。
また、全額というのが、現金であれば共同相続人全員の共有となりますが、預金債権であった場合には、相続開始時より当然に分割され、各相続人に相続分に応じて帰属することになります。
さらに、不倫関係の維持継続を目的とする遺贈は公序良俗(民法90条)に反し無効とされる場合もあります。かかる場合にも、遺贈は初めからなかったことになり、法定相続人が相続する権利を有します。
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