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不動産と相続

売主(登記義務者)が死亡した場合

  

事例

AとBは、Aの所有する不動産をBが買受ける売買契約を締結しました。しかし、その所有権移転登記をしないでいるうちにAが死亡し、甲および乙がAの相続人となりました。
この場合、Bは誰に対して所有権移転登記手続請求をすればよいでしょうか。

相続人全員の協力が得られる場合

不動産登記法62条は、「登記権利者、登記義務者又は登記名義人が権利の登記の申請人となることができる場合において、当該登記権利者、登記義務者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該権利に関する登記を申請することができる」と規定しています。

つまり、BのAに対する所有権移転登記請求権に対応するAの登記義務は、その相続人である甲および乙が承継しますので、Bを登記権利者、Aを登記義務者として、Bと、Aの登記義務を承継した相続人甲および乙が共同申請人となって、AからBへの所有権移転登記をします。
この場合、Aの生前において既に物件変動の効果は発生しており、甲および乙は、単にAの登記義務を承継したにすぎませんので、甲および乙への共同相続登記をしたうえでBへの所有権移転登記申請をする必要はありません。
登記簿上、直接AからBに所有権が移転することとなります。

相続人全員の協力が得られない場合

では、Aの相続人甲および乙が登記申請に協力しない場合、どうすればよいでしょうか。

Bは、Aの登記義務を承継した甲および乙を被告として、AからBへの所有権移転登記手続を請求し、Bが勝訴(請求認容)の確定判決を得たときは、単独でAからBへの所有権移転登記申請をすることができます。判決により、甲および乙の登記申請の意思表示が擬制される(意思表示があったものとみなされる)ためです(不動産登記法63条1項)。

※ここで気を付けなければならないことは、Aの相続人全員(相続放棄者は含みません)が登記義務者の承継人として所有権移転登記の申請人となる必要があることです。

不動産の買主であるBは、売主Aの共同相続人中の一人だけ(甲だけ)を被告として所有権移転登記手続を求める訴訟を提起することはできますが、仮に甲に対してだけ登記手続を命じる確定判決を得ても、申請人である相続人全員(甲および乙)の登記申請の意思表示があったことにはなりませんので、その判決のみにもとづいてBは単独で所有権移転登記申請をすることはできません。

買主(登記権利者)が死亡した場合

 

事例

CとDは、Cの所有する不動産をDが買受ける売買契約を締結しました。しかし、その所有権移転登記をしないでいるうちにDが死亡し、丙および丁がDの相続人となりました。
この場合、Dの相続人である丙はどのように所有権移転登記手続を行えばよいでしょうか。

売主の協力が得られる場合

買主(登記権利者)であるDが死亡したことにより、相続人である丙は、DのCに対する所有権移転登記請求権を承継します。
 そのため、まず、①Dを登記権利者、Cを登記義務者として、Dの相続人である丙とCが共同申請人となって、CからDへの所有権移転登記をします。そのうえで、②丙は、Dの死亡による相続登記を申請します。

つまり、登記簿上、①CとDの売買契約日を原因日付とするCからDへの所有権移転登記、②Dの死亡日を原因日付とする相続登記の2件が記載されることとなります。
売主から直接相続人へ所有権移転登記をすることは認められません。実際の物件変動の過程と相違するからです。

売主の協力が得られない場合

丙は、Cに対し、Dへの所有権移転登記手続を請求し、請求認容判決が確定すると、Cの登記申請の意思表示が擬制されます。これにより、丙は、①CからDへの所有権移転登記を単独で申請し(不動産登記法63条1項)、②Dから丙への相続登記を申請することになります。
 なお、②が可能なのは、不動産登記法63条2項により、「相続による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる」と定められているためです。

※ここで注目すべき点は、買主Dの共同相続人は丙および丁の2名ですが、そのうちの一人(丙)からでも、売主Cに対し、Dへの所有権移転登記手続を請求できることです。なぜなら、民法252条但書所定の保存行為に属するものと解されているからです。
 この点で、登記義務者(売主)の相続人が申請人となる場合には相続人全員の協力が必要だったことと異なります。登記権利者(買主)の相続人が数人あるときでも、相続人の一部または全員のいずれからでも、買主である被相続人名義への所有権移転登記手続を請求することができるのです。

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