相続に強い名古屋市の弁護士の遺産分割,遺留分,遺言,相続税の相談｜愛知県

Q.父が亡くなりました。相続人は後妻と私です。
後妻から私に「相続手続きに必要なので、同封の書類に実印を押印して、印鑑証明書を同封の上、ご返送してください。」
といって、「私は被相続人から、生計の資本として贈与を受けているので相続する相続分のないことを証明します。」
と書かれた書類が同封されていました。
私は、生前大学・大学院（修士）の学費を出してもらっていますが、その他に何も特別なことはしてもらっていません。
これに印を押すとどうなりますか？
その書類を郵送した後に父の遺産分割をすることができますか。

その書類に印鑑を押すことで、後妻が父の財産について自己名義の相続登記をできるようになり、あなたが遺産分割を求めることができなくなることが考えられます。

後妻から届いた書類は、いわゆる相続分なきことの証明書（特別受益証明書）です。
特別受益の制度とは、相続人のうち1人あるいは一部の者が、被相続人から生前に特別の利益を受けている場合、公平の観点から、これを遺産の先払いとして考慮し、その受益部分についてその相続人の法定相続分から控除する制度です。
後妻は、あなたの大学院の学費が、特別受益にあたるとして、もう相続分はないということを主張しているものと考えられます。
あなたが印鑑を押せば、相続分なきことの証明書（特別受益証明書）は、相続登記をするときの原因証書となり、この証明書に印鑑証明書を添付して申請をすると、後妻は相続登記をすることができます。
また、相続分がないことを認める書面であるので、遺産分割がすんでしまったものとして扱われる可能性があります。

相続分なきことの証明書（特別受益証明書）は、相続放棄や遺産分割協議の手続きを経ることなく、相続登記を可能ならしめるものとして利用されることがあります。
そもそも大学や大学院の学費も、必ずしも特別受益にあたるとも限りません。被相続人の扶養義務の範囲といえるか否かを、被相続人の社会的地位・資産状態等から個別に判断して、特別受益か否かは判断されます。また、後妻にも特別受益があるかもしれません。

さらに、相続分なきことの証明書（特別受益証明書）は実際は相続放棄と同じ機能を有するものとして利用されていますが、相続放棄とは異なり、負債は相続することになります。つまり、父に借金があった場合は、あなたはプラスの財産は相続しないにも関わらず、借金は相続することになるのです。安易に印鑑を押さないことです。

分からないことがあったり、後妻について疑わしく思うところがあるなら、信頼できる弁護士に相談することをおすすめします。