弁護士 浅野由花子
相続をめぐるトラブルを避けるため、公正証書遺言を選ぶ方が増えています。公証人という専門的な第三者が直接遺言者の意思を確認して作成し、その後は公証役場で遺言書が保管されるという点で、遺言者の意思が尊重され、偽造や変造のリスクが低く、公正証書遺言は非常に有効な手段です。
しかし、手続きの形式を正確に理解していないと、せっかく作成した遺言が無効になってしまう可能性があります。今回は、公正証書遺言の要件の一つである「口授」に焦点をあて、過去の裁判例も紹介しながら注意点をご説明します。
遺言は、民法で定められた方式に従って作成する必要があります。これを「遺言の要式性」と呼びます。要式に反する遺言は無効となってしまいます。その中でも、公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」は、以下の要件を満たす必要があります。
したがって、「口授」も要件の一つであり、口授が適切に行われていないと、その遺言は無効と判断される可能性があります。
また、公正証書遺言とは異なりますが、病気などで死にそうな人がする死亡危急者遺言(民法967条)でも、証人三人以上の立ち合いと、「口授」が要件となっています。
「口授」とは、遺言者が自分の言葉で遺言の内容を伝えることを意味します。その趣旨は、遺言者が遺言内容を認識したうえで、自らの意思で作成していることを確認することにあります。
遺言が有効となるには遺言能力が必要となりますが(民法963条)、法は公正証書遺言においては、遺言者の真意を確認するために、別の要件として「口授」を求めているのです。
では、口授はどのタイミングで行われるのでしょうか?969条2号、3号から、事前に何も見聞きしない状態で遺言者が公証人に対して口授を行い、公証人がその内容を筆記して、読み聞かせるという順番でなければならないと考える方もいるかもしれません。しかし、実務においては、公証人が筆記した遺言の内容を読み聞かせた後に、遺言者が同じ趣旨の内容を述べれば「口授」と認められます。
どのような場合に公正証書遺言の「口授」が無効とされてしまうのでしょうか?以下のようなケースでは、遺言の効力が否定された例があります。
これらのケースでは、遺言者が言葉で遺言内容を述べることなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないため、遺言者が遺言の内容を十分に理解したうえで自発的に作成したことの確認ができない、または遺言者の声が聞こえないなど遺言者の意思を確認できる状態になかった等と判断されました。
その反面、次のようなケースでは口授は有効と判断されています。
原則として、口授があったといえるためには、遺言作成時に、遺言者が具体的に遺言内容に言及することが必要です。しかし、上記のケースでも「口授」が肯定されていることからも、「口授」があったかどうかは、遺言書作成当日のやりとりだけでなく、遺言に関する遺言者の生前の言動や遺言当日の健康状態なども含めて、遺言者の真意が確認できるものか総合的に判断されています。
病気や障害などで話すことができず、口授ができない人は公正証書遺言ができないのでしょうか?法は、口がきけない人であっても公正証書遺言を作成できることを明言しています(民法969条の2)。
このような場合、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を「通訳人」の通訳により申述し、又は自書して、「口授」に代えることとなっています。ですから、筆談や通訳により公正証書遺言を作成することが可能です。病気などで公証役場に行けない場合には、公証人が病床に赴いて公正証書遺言を作成することもできます。
なお、通訳人による通訳等、特別の方式で公正証書遺言を作成した場合には、公証人はその旨を証書に付記しなければなりません(民969条の2第3項)。
公正証書遺言作成にあたり、通訳人になるためにはなんらかの資格が必要となるのでしょうか?一般的に、通訳人とは手話通訳人や通訳士等の資格を持つものに限られないと考えられています。
通訳人にあたるか、通訳の有効性等が争われて肯定されたケースをご紹介します。
これらのケースでは、通訳人とは「本人の意思を確実に他者に伝達する能力を有する者であれば、広くこれに当たる」と考えています。しかし、遺言者が口をきけない場合において、遺言者が意思内容を通訳人に伝達できているか、通訳人がその内容を読み取り公証人に伝えることができているかについては、個別的な事情の下で慎重に判断されることとなるでしょう。
遺言を確実に残すには、「何を書くか」だけでなく「どう作るか」も非常に重要です。とくに高齢の方や体調に不安のある方は、早めに弁護士など専門家に相談し、作成時には要件を満たすように手続きを行うようにしましょう。
当事務所では、相続や遺言に関するご相談を随時受け付けています。ご自身の意思を正確に残し、大切な人への想いをきちんと伝えるためにも、弁護士など専門家のサポートをぜひご活用ください。
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