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相続放棄の申述が受理されたけれど後で問題になる?

弁護士 浅野 由花子

相続放棄は家庭裁判所に申述して「受理」されたから、これ以上問題となることはないと思われがちです。ところが、現実には、相続放棄が受理されたあとでその有効性が争われることも珍しくありません。

それでは、相続放棄の効力はどのように発生し、なぜ後から争うことができるのでしょうか。

1 相続放棄の効力は「申述受理審判」によって生じる

相続放棄は、相続人が家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、申述受理審判が出ることによって、はじめて相続放棄の効力が生じます(民法938条)。

しかしながら、相続放棄の申述受理の審判は性質として「公証行為」(特定の事実や法的関係を公に証明する行為)であり、判決と異なりその決定内容に当事者や裁判所は拘束されないため(既判力がない)、債権者は申述受理後も裁判でその効力を争うことができます(大阪高裁平成10年 2月 9日、東京高裁昭和29年 5月 7日判決等)。

つまり、相続放棄の申述が受理されても相続放棄について実体法上の効力が確定したわけではないのです。

なお、申述が受理されなかった場合、再度の申述を行うことはできず、不服申し立ての手段は基本的に即時抗告に限られています。

2(補足)相続放棄の申述が受理される場合とは?

ところで、相続放棄の申述が受理されないことはあるのでしょうか。

まず、相続放棄の申述は次のような実質的要件を満たしている必要があります。

1. 相続人によるものであること

2. 本人の真意に基づくものであること(強迫・錯誤などがないこと)

3. 熟慮期間内(原則3か月以内)にされたこと

4. 法定単純承認事由が存在しないこと

したがって、申立を受けた家庭裁判所は上記の要件具備について判断のうえ、申述を受理するか却下するかを決定します。

ではその判断はどのようになされるのでしょうか?

これについては、相続放棄の実質的要件を具備しないことが明白である場合を除き、原則として家裁は申述を受理するべきでとしています。

理由としては、債権者などは別途裁判で相続放棄の効力を争うことができますが、相続放棄を申立てた人間は、却下されると相続放棄の効力を主張できず、即時抗告の中で申述受理を争うほかないため、救済手段が乏しくあまりに酷であるからです。

① 東京高裁令和元年11月25日決定

「相続放棄の申述は,これが受理されても相続放棄の実体要件が具備されていることを確定させるものではない一方,これを却下した場合は,民法938条の要件を欠き,相続放棄したことがおよそ主張できなくなることに鑑みれば,家庭裁判所は,却下すべきことが明らかな場合を除き,相続放棄の申述を受理するのが相当」である。

② 大阪高裁平成10年 2月 9日決定

「申述受理の審判は、基本的には公証行為であり、審判手続で申述が却下されると、相続人は訴訟手続で申述が有効であることを主張できないから、その実質的要件について審理判断する際には、これを一応裏付ける程度の資料があれば足りるものと解される。」

そのため、多少判断が難しい事情があっても、要件欠缺が明らかとまでは言えず、家裁段階では「受理」という判断がなされる可能性があります。逆にいえば、受理されたからといって、実体的に問題が一切ないと確定したわけではない、という点に注意が必要です。

3 (補足)相続放棄の申述書だけで判断できない場合に家裁はどうするの

相続放棄の審理は通常、申立人の真意に基づくものか、熟慮期間内かを中心に申立書の記載から容易にわかるものは書面照会のみで済ませています。

これに関し、主に相続放棄の申述が真意に基づくものか等を確認するために、相続放棄照会書(回答書)が家裁から申立後に送られてくることが多いです(送られないケースもあります)。

そして、照会書に対する回答をふまえ、なお疑義が残る場合には、上記裁判例②のように裏付けとなる資料の提出を求められることがあるようです。

そして、資料を見たうえで、さらに申立人に事情を聴いた方が良いと担当裁判官が判断した場合には、審問が実施されることもあります(最判昭和29年12月21日、Q&A 家事事件の実務と手続 新日本法規より)。

4 相続放棄の効力を争いになる場面とは

例えば、相続債権者(被相続人にお金を貸していた人など)が、放棄者を相続人だと考えて相続債務の返済を求めたところ、放棄者に「もう相続放棄したから、相続人ではない、他の相続人に当たってくれ」と返済拒否されたとします。

しかし、債権者としては、なんとかその人からもお金を回収したいと考えるでしょう。

そのような中で、相続財産や相続人の状況を調査していった結果、放棄者が申述の時に熟慮期間を徒過していたり、相続財産の処分など単純承認が疑われる事情などが出てくる場合があったとします。

その場合、多くはないとは思われますが、債権者が相続債務の履行請求訴訟などを提起し、相続放棄は実質的な要件を欠き無効であり放棄者は未だに相続人であると主張して返済を求めてくることもありえます。

5 おわりに

相続放棄は「受理されたら終わり」というイメージを持たれがちですが、受理後に効力が争われることもあります。

今後の権利や義務に大きな影響を及ぼす重要な手続であり、相続放棄の申述後の撤回が原則認められないため、十分に内容を理解したうえで、慎重に検討することが大切です。もし、多大な相続債務を承継し、返済不能ということですと、最悪は破産という結末を迎えることとなります。

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