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遺産分割

祖父の代から残っている土地の遺産分割


関係者

相関図

被相続人:依頼者の祖父

相続人:依頼者(Aさん)、その他10名以上

概要

Aさんは、祖父の代から残っている土地の固定資産税を支払っていましたが、その名義は祖父のままで、相続人が誰かも正確には分からない状態でした。相続登記が義務化されることを契機に、その問題を解決すべく、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

当事務所では、まずは相続人の調査を行い、その結果、相続人が10人以上になっていることが分かりましたので、まずは相続分譲渡で相続人の数を減らすことを試みました。

その結果、多くの相続人からは相続分譲渡を得られましたが、一部の相続人と連絡が取れなかったため、やむを得ず遺産分割調停を申し立てました。

遺産分割調停を申し立て、裁判所から一部の相続人に照会をしたところ、積極的に遺産を取得する意向が示されなかったことから、裁判所が調停に代わる審判を出し、異議が出されず、Aさんが単独で土地を相続することが確定しました。

解決に要した期間

約5か月

所感

相続登記が義務化されたことで、先祖の名義のままになっている不動産の遺産分割をする必要に迫られる可能性があります。時間が経つと相続人が増え続け、解決が難しくなる可能性がありますので、遺産分割は早めにスタートする方が無難でしょう。

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遺留分減殺請求

全財産を兄弟に相続させる遺言があったが、遺留分侵害額請求で解決した事案


関係者

相続関係図

被相続人:Aさんの父
相続人:兄弟、Aさん

概要

Aさんは、父親が亡くなった後、兄弟から父親の遺言書を見せられました。その遺言書には全ての財産を兄弟に相続させると記載されていました。Aさんは、兄弟から他に何か話があるのではないかと待っていましたが、何の話もなかったことから、何かできないかと当事務所に相談にいらっしゃいました。当事務所では、遺言書の内容を確認した上で、遺留分侵害額請求権があることから、代理をして遺留分侵害額請求権の行使や請求額の計算をおこないました。兄弟と交渉した結果、妥当な遺留分額を支払うという内容で交渉がまとまり、比較的早期に解決することができました。

解決に要した期間

約3か月

所感

遺言がある場合には、原則として遺言の内容に従って遺産が分けられます。全ての遺産を誰かに相続・遺贈させるという内容の遺言がある場合には、遺産を受け取ることができない相続人が出てくる可能性もあります。そのような場合に備えて、民法では遺留分侵害額請求権の定めがありますので、弁護士等の専門家に相談した方がいいでしょう。

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公正証書遺言の「口授」とは?

弁護士 浅野由花子

1.公正証書遺言という選択肢

相続をめぐるトラブルを避けるため、公正証書遺言を選ぶ方が増えています。公証人という専門的な第三者が直接遺言者の意思を確認して作成し、その後は公証役場で遺言書が保管されるという点で、遺言者の意思が尊重され、偽造や変造のリスクが低く、公正証書遺言は非常に有効な手段です。

しかし、手続きの形式を正確に理解していないと、せっかく作成した遺言が無効になってしまう可能性があります。今回は、公正証書遺言の要件の一つである「口授」に焦点をあて、過去の裁判例も紹介しながら注意点をご説明します。

2.公正証書遺言とは?遺言の要式性

遺言は、民法で定められた方式に従って作成する必要があります。これを「遺言の要式性」と呼びます。要式に反する遺言は無効となってしまいます。その中でも、公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」は、以下の要件を満たす必要があります。

(根拠条文)民法969条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に「口授」すること。
三 公証人が、遺言者の「口述」を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

したがって、「口授」も要件の一つであり、口授が適切に行われていないと、その遺言は無効と判断される可能性があります。

また、公正証書遺言とは異なりますが、病気などで死にそうな人がする死亡危急者遺言(民法967条)でも、証人三人以上の立ち合いと、「口授」が要件となっています。

3.「口授」の目的とタイミング

「口授」とは、遺言者が自分の言葉で遺言の内容を伝えることを意味します。その趣旨は、遺言者が遺言内容を認識したうえで、自らの意思で作成していることを確認することにあります。

遺言が有効となるには遺言能力が必要となりますが(民法963条)、法は公正証書遺言においては、遺言者の真意を確認するために、別の要件として「口授」を求めているのです。

では、口授はどのタイミングで行われるのでしょうか?969条2号、3号から、事前に何も見聞きしない状態で遺言者が公証人に対して口授を行い、公証人がその内容を筆記して、読み聞かせるという順番でなければならないと考える方もいるかもしれません。しかし、実務においては、公証人が筆記した遺言の内容を読み聞かせた後に、遺言者が同じ趣旨の内容を述べれば「口授」と認められます。

4.口授が無効と判断されるのはどんなとき?

どのような場合に公正証書遺言の「口授」が無効とされてしまうのでしょうか?以下のようなケースでは、遺言の効力が否定された例があります。

  • 遺言者が、公証人の読み聞かせに対し、ただ頷いただけだった(最判昭和52年6月14日)
  • 公証人の読み聞かせに対し、頷いたり、「はい」などと短く返答したりするのみで、遺言内容に関する具体的な発言がなかった。(大阪高判平成26年11月28日)
  • 公証人の読み聞かせに対し、遺言者は公証人の手を握って応じたのみだった(東京地判平成20年11月13日)
  • 証人が遺言者や公証人から7メートルほど離れた場所にいて、口授のときに遺言者の声が聞こえなかった(広島地判平成元年8月31日)

これらのケースでは、遺言者が言葉で遺言内容を述べることなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないため、遺言者が遺言の内容を十分に理解したうえで自発的に作成したことの確認ができない、または遺言者の声が聞こえないなど遺言者の意思を確認できる状態になかった等と判断されました。

その反面、次のようなケースでは口授は有効と判断されています。

  • 公証人が、あらかじめ他人から聴取した遺言の内容を筆記し、公正証書用紙に清書したうえ、その内容を遺言者に読み聞かせたところ、遺言者が遺言と同趣旨の内容を述べた(最判昭和43年12月20日)
  • 遺言者の指示で遺言者から事前に遺言内容を聴取して筆記しており、遺言当日に、公証人がこれを読み聞かせたところ、遺言者はその都度「はい」と答え、最後に立会証人から「これで遺言書を作りますが、いいですね。」と確認されたときに、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と答えた。(最判平成11年9月14日)
  • 公証人の読み聞かせに対し、遺言者はその都度頷いて内容を了承し、さらに、遺言文中の誤りを指摘して訂正を求めた上で、読み聞かせが終了した後、「このとおりで間違いありませんね。」と尋ねたところ、「そのとおりで間違いありません。よろしくお願いします。」と答えた。(最判平成16年6月9日)

原則として、口授があったといえるためには、遺言作成時に、遺言者が具体的に遺言内容に言及することが必要です。しかし、上記のケースでも「口授」が肯定されていることからも、「口授」があったかどうかは、遺言書作成当日のやりとりだけでなく、遺言に関する遺言者の生前の言動や遺言当日の健康状態なども含めて、遺言者の真意が確認できるものか総合的に判断されています。

5.口がきけない人でも公正証書遺言を作れるの?

病気や障害などで話すことができず、口授ができない人は公正証書遺言ができないのでしょうか?法は、口がきけない人であっても公正証書遺言を作成できることを明言しています(民法969条の2)。

このような場合、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を「通訳人」の通訳により申述し、又は自書して、「口授」に代えることとなっています。ですから、筆談や通訳により公正証書遺言を作成することが可能です。病気などで公証役場に行けない場合には、公証人が病床に赴いて公正証書遺言を作成することもできます。

なお、通訳人による通訳等、特別の方式で公正証書遺言を作成した場合には、公証人はその旨を証書に付記しなければなりません(民969条の2第3項)。

6.通訳人になるには?

公正証書遺言作成にあたり、通訳人になるためにはなんらかの資格が必要となるのでしょうか?一般的に、通訳人とは手話通訳人や通訳士等の資格を持つものに限られないと考えられています。

通訳人にあたるか、通訳の有効性等が争われて肯定されたケースをご紹介します。

  • 遺言者はパーキンソン病のために口がきけなくなっており、特別な資格や専門知識はないものの遺言者の介助を9年間続けてきた者が、公証人の読み聞かせに対する遺言者の反応を読み取り、公正証書遺言を作成した(東京地判平成20年10月9日)。
  • 人工呼吸器を装着しており発話が明確ではないものの、頻繁に遺言者を見舞って会話をしていて遺言者の声質や話し方等を聞き慣れて判別し発話の内容を理解できる者が、公証人の読み聞かせに対する遺言者の発話の内容を公証人に伝えた(東京地判平27年12月25日)

これらのケースでは、通訳人とは「本人の意思を確実に他者に伝達する能力を有する者であれば、広くこれに当たる」と考えています。しかし、遺言者が口をきけない場合において、遺言者が意思内容を通訳人に伝達できているか、通訳人がその内容を読み取り公証人に伝えることができているかについては、個別的な事情の下で慎重に判断されることとなるでしょう。

7.最後に

遺言を確実に残すには、「何を書くか」だけでなく「どう作るか」も非常に重要です。とくに高齢の方や体調に不安のある方は、早めに弁護士など専門家に相談し、作成時には要件を満たすように手続きを行うようにしましょう。

当事務所では、相続や遺言に関するご相談を随時受け付けています。ご自身の意思を正確に残し、大切な人への想いをきちんと伝えるためにも、弁護士など専門家のサポートをぜひご活用ください。

自筆証書遺言が見つかったらすべきこと~遺言書の検認~

作成日:2025/6/11

弁護士 渡邊 佳帆

1.はじめに

中部地方のとある旧家の男性が亡くなりました。男性の顧問弁護士が、男性が全文を手書きで書き、日付及び氏名を自書し、印鑑を押した遺言書を預かっていました。

男性には三人の息子がいました。顧問弁護士は、三人の息子を男性の自宅に呼び、遺言書を見せました。

遺言書には、「とある女性と結婚した者に全ての遺産を……」ということは書かれておらず、どの遺産をどの兄弟に相続させるかが丁寧に記載されていました。また、三人の取り分が平等になるように考えられていました。

三兄弟は、父からの息子たちを想った最後のプレゼントに感謝し、涙を流しました。

遺言書どおりの内容での遺産分割も無事終わり、三兄弟は、兄弟の絆を一層深めました。

めでたし、めでたし。

……あれ?
(もちろんフィクションです)

相続関係図

2.遺言書の検認

⑴男性が遺した遺言

男性が残していた遺言書は、「全文を手書きで書き、日付及び氏名を自書し、印鑑を押した遺言書」です。このような遺言を自筆証書遺言といいます。

自筆証書遺言は、遺言書保管所に保管されているもの以外は、家庭裁判所で検認を受ける必要があります。また、封がされていれば、開封も家庭裁判所の検認手続で行います。

⑵検認とは?

検認とは、後日の紛争に備えて、遺言書の原状を保全する手続きです。封筒に入っている、他の紙と一緒に保管されている等すれば、それらも一緒に保全されます。

検認により、裁判所が遺言書の原状を保全することで、偽造・変造を防ぐことが目的です。

⑶1.の例ではどうするべきだった?

1.の例では、顧問弁護士が遺言書を保管していました。顧問弁護士は、男性が亡くなったことを知った後、遅滞なく、家庭裁判所に検認の申立てをする必要がありました。

なお、仮に、誰も遺言書を保管しておらず、三兄弟(相続人)のうちの誰かが遺言書を発見した場合は、その相続人が検認の申立てをする必要があります。

3.検認をしないとどうなるのか

⑴ 遺言書の効力との関係

検認はあくまで遺言書の原状を保全する手続きなので、検認の有無により遺言書の有効無効は左右されません。検認をしなくても、有効な遺言書は有効です。

⑵ 検認の申立てはやらないとだめなのか?

三兄弟がとくに遺言書の偽造・変造のおそれがあるとは考えておらず、検認の必要性を感じていなければ、検認の申立てをしなくてもよいのでしょうか。

検認の申立てをしないと、5万円の過料に処されます。検認の申立てをすることは法律で定められたことですので、しておくべきです。

また、遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は、相続欠格事由にあたり、相続人となることができないと民法で定められています。
これらの行為をしていなくても、遺言書を発見してからしばらく何もしないでおくと、他の相続人からこれらの行為をしているのではないかと勘繰られ、痛くもない腹を探られることにもなりかねません。自分の身を守るためにも、検認はするべきです。

4.検認の流れ

検認の流れは以下のとおりです。

ステップ 手続内容
遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てをする
例:最後の住所地が名古屋市→名古屋家庭裁判所
最後の住所地が岡崎市→名古屋家庭裁判所岡崎支部)
家庭裁判所から申立人に連絡があり、検認日程の調整が行われる
相続人全員に、家庭裁判所から検認手続の日程が通知される
申立人および立会いを希望する相続人が家庭裁判所に出向き、検認手続に立ち会う

なお、自筆証書遺言であっても、遺言書保管所に保管されているものは検認が不要です。
公正証書も検認は不要です。

5.おわりに

弁護士法人名古屋総合法律事務所は、検認の申立ての代理も承っております。ご自身のみで手続きを進めることに不安がある場合は、遠慮なくご相談ください。

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高齢者の身元保証問題

弁護士 杉浦恵一

高齢者の身元保証サービスの現状

令和7年1月8日の日本経済新聞の記事で、高齢者の身元保証に関して、トラブルが急増しているという報道がありました。その内容としては、高齢者の身元保証や死後の事務手続を家族に代わって担うサービスを巡って、消費生活センターへの相談が急増しているということです。

国民生活センターに寄せられた相談件数としては、ここ10年ほどは年間100件から200件程度だったものが、2023年には300件を超えているということです。

このような問題の背景には、少子高齢化により身近に頼ることができる親族がおらず、第三者・組織・団体に頼らざるを得ないという問題があるようです。

身元保証とは何か

そもそも「身元保証」とはどのようなことを指すのでしょうか。法律上では「身元保証に関する法律」という法令がありますが、これは雇用の際に身元等を保証することに関して規制をする法律ですので、高齢者の問題を規制するものではありません。

法律上、高齢者の「身元保証」を定義したり、規制、管轄する法令がありませんので(「社会福祉法」など施設を規制する法令を除き)、高齢者の「身元保証」というのは、各団体・各サービス提供者によって内容が異なっているのが現状です。

一般的に高齢者の「身元保証」サービスとして提供されているのは、①病院に入院する際や介護施設に入所する際に身元引受人になったり、緊急連絡先、保証人になったりすること、②高齢者の財産管理、収支の管理、支払いのサポート等をすること、③高齢者の死亡後の火葬、納骨、遺品処分などの死後事務委任、といったことが想定されているようです。

成年後見制度との違い

主に高齢者に代わって財産管理等をすることとして、民法上の「成年後見」等の制度はありますが、成年後見の場合には、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」こと(民法7条)が必要になってきますので、物事を理解・判断する能力が本人に備わっている間は、このような成年後見は利用することができません。

また、成年後見では、現状では全面的に成年被後見人が財産管理等をすることになっていますので、一部の事柄だけを行うということができません。

そのような状況であるため、民間の高齢者身元保証等のサービスに需要が生じていると考えられます。

身元保証サービスのトラブル

そのような中、高齢者の「身元保証」サービスによるトラブルが急増しているという記事がありましたが、前記の記事で挙げられている事例としては、想定していたよりも利用料がかかる(高額)であったり、契約がきちんと履行されない、解約しても全額が返金されない、といったようなトラブルが多いようです。

また、法的な紛争としては、利用者とサービス事業者との間で利用者の財産をサービス事業者に贈与、死因贈与、遺贈といったことをして、利用者の相続人との間で相続に関するトラブルになることもあるようです。

少子高齢化とサービス需要の増加

これまではこのような高齢者の身元保証や財産管理は、配偶者、子供や兄弟姉妹、親戚などの親族が行ってきたのではないかと思われます。

しかし、少子高齢化や非婚化により、親族が少なくなり、またはいなくなった結果、このようなサービスに頼らざるを得なくなっていると考えられます。

規制の必要性

このような身元保証等のサービスに関して、現在ある問題点としては、このようなサービス事業を包括的に管轄、規制する法令や官庁がなく、個別の問題は民法などの一般法に頼って解釈等をせざるを得ない、ということではないでしょうか。

民法や消費者関連の法令では、個別の行為について規制し、解決することができるかもしれませんが、事業者そのものについて何らかの規制をすることができず、最低限の信頼ができる業者なのか(例えば何かあった際に資力があるのか否か、利用者とサービス提供者の人数比が適正なのか等)が分からず、安心して契約できるかどうかが分からないことが問題点として挙げられます。

今後、このような高齢者の身元保証等のサービスの需要が増えていくのではないかと思われますので、何らかの規制や基準が必要になってくるのではないかと考えられます。

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デジタル遺産とは?

弁護士 杉浦恵一

近年では、ITの発展に伴い、色々なことがウェブ上で完結したり、電子的な対応で完結することが増えてきています。また、実際の現物よりも情報の方が価値を持つような時代になってきています。

例えば、暗号資産(過去の言い方であれば仮装通貨)は、少し前はほとんど価値を持っていませんでしたが、今ではその市場価値は非常に高騰してきています。しかし、暗号資産は何か現物・物としての裏付けはなく、あくまで情報として流通していることになります。

このような現物の裏付けのない情報などを含めて、近年では「デジタル遺産」という概念が提唱されているようになってきました。このようなデジタル遺産は、民法やその他法令の裏付け、定義があるわけではありませんが、今後はますます重要になってくる可能性もありますので、「デジタル遺産」という概念を踏まえて準備を進める必要があるでしょう。

「デジタル遺産」とは

では、「デジタル遺産」とはどのようなものを指すのでしょうか。 「デジタル遺産」に法律上の定義はありませんが、一般論として、被相続人(故人)がもっていた電子的なファイル、データ、情報といったものを指すことが多いのではないでしょうか。

情報は、パーソナルコンピューターやスマートフォン、ハードディスク等の機械・媒体に保存されているものと、オンライン上・ウェブ上に保存されているもの(第三者のサーバー上で管理されているもの)と、大きく分けて2種類に分けることができますが、このどちらも「デジタル遺産」だと言えるでしょう。

具体例

デジタル遺産の具体的な例としては、①電子データ(デジタルの写真・動画、文書等のファイル)、②電子メール等のアカウント、③動画共有サイトなどのSNSのアカウント、④有料動画サイトなどの何らかのウェブ上でのサービスのアカウント、⑤クラウド上のファイル、⑥暗号資産、⑦ICカード中のチャージ金額、⑧ウェブ上のポイント、といったような無数の種類のものが考えられます。ウェブ上のサービスの種類だけデジタル遺産が観念されると言ってもいいかもしれません。

有体物以外の遺産

これまで遺産といえば、不動産や車、骨とう品などの有体物を想定してきました。株式は株券が電子化されたことでデジタル遺産に移行しつつあるともいえますし、預貯金や貸付金は債権(請求できる財産上の権利)ですので、物としての裏付けがないという意味では、デジタル遺産に近いとも言えます。しかし、これらの財産は遺産分割の方法が確立していますので、遺産分割することに問題は生じにくいでしょう。

他方、上にあげたようなデジタル遺産は、そもそも財産としての性質をもつのかどうか疑問があります。データですので複製ができるものについては、複製をすれば遺産として分割する必要性がないとも言えます。

また、ウェブ上・インターネット上で第三者が提供しているサービスのアカウント等は、そもそも遺産かどうか、相続の対象になるのかという点から疑問が出てきます。

民法の規定

民法では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」(民法896条)と定め、相続により被相続人の一切の権利義務を承継する(引き継ぐ)と定めています。

他方で、一身専属的なもの(例 画家が絵を描く債務などその人でなければ意味をなさないもの)は相続されないとされています。

これはあくまで民法の規定ですので、例えば契約で、相続が発生した場合には契約終了し、遺産として引き継がないという契約もあり得ます。

なお、民法の使用貸借(無料で物を借りる契約)では、使用貸借の終了事由として借主の死亡を挙げていますので、民法でも相続によって引き継がない契約があることは認めていると言えます(民法597条3項「使用貸借は、借主の死亡によって終了する。」)。

今後の展開

近年では、動画サイトからかなりの収益が発生する例などもありますので、デジタル遺産が相当な財産的価値をもつことも考えられます。

このような場合に、デジタル遺産が遺産分割の対象になるのか、裁判所で遺産分割を決めることができるのか、今後の展開に注目する必要があるでしょう。

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遺産分割

親の面倒を見ていた家族との遺産分割協議の事例


関係者

相関図

被相続人:依頼者の母親

相続人:Aさん(依頼者)、Bさん(生前に介護を担当)、Cさん

概要

Aさんの母親は、公正証書遺言を作成しており、一部の財産についての分割方法はBさんが取得することで決まっていましたが、他の財産について遺産分割協議をする必要がありました。

Aさんは、母親の生前に面倒を見ていたBさんとの間で遺産分割協議が上手く進まず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

解決までの道のり

Aさんのお話をお伺いし、中立の第三者を挟んで協議をするのがよいと思われましたので、遺産分割調停を申立てました。

調停の中では、遺言で遺産の一部の帰属が決まっていることや、寄与分や過去の預金引き出しがあること等が遺産分割にどのような影響を与えるかについて整理して主張をしました。

最終的には、残存遺産をAさん及びCさんが取得する前提で協議ができ、Aさんも一部譲歩をすることで調停での成立をすることができました

解決に要した期間

約1年

所感

遺産分割調停においては、不成立となり審判に移行した場合のことを想定しつつ、譲歩可能な範囲内で調停を成立させることができないかを検討することが必要となります。

検討すべき点が多かったり、難解であったりすると、審判の見通しがつかず、調停において譲歩する範囲を十分に検討できないことも考えられます。 そのような場合には、弁護士等の専門家に依頼することも検討してもよいと思います。

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よくある特別受益の問題

弁護士 杉浦恵一

相続・遺産分割が争いになりますと、ある相続人は被相続人の生前に援助を受けているとか、何かもらっているという話が出て、紛争が複雑化することがあります。
ただ、そのような話の中には、特別受益といえるかどうか難しい問題もあります。

まず「特別受益」とは何でしょうか。 これを民法の条文から見ますと、民法903条1項には、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」という定めがあります。
この中で特別受益とされるのは「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」という部分です。被相続人の生前にもらったものであれば何でも特別受益となるわけではなく、婚姻、養子縁組、生計の資本として贈与をしてもらうことが必要です。

なお、民法903条3項には、「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」と定められています。この部分がいわゆる「持ち戻し免除の意思表示」と言われており、被相続人が、特別受益に関して相続財産に持ち戻して計算をしなくてもいいと意思表示をすれば、特別受益を遺産分割で反映・精算(持ち戻し)することができなくなります。
この持ち戻し免除の意思表示は、明示でも黙示的にでも構わないと考えられていますが、揉めますので明示的に書面でした方が無難でしょう。

では、よく特別受益かどうか問題になるものとして、どのようなものがあるのでしょうか。

1 小遣い程度の金銭

一部の相続人が被相続人の生前から小遣いをもらっていたという場合があります。このような小遣いは、重なるとかなりの金額になってくる場合もあります。
しかし、裁判所の実務上の考え、運用としては、例えば一度に5万円や10万円に満たないような現金の支払いは小遣いの範囲(つまり生計の資本としての贈与とまでは言えない)として、特別受益に当たらないという判断が多いと思われます。

2 学費の負担

近年では大学進学率が上昇してきているようですが、義務教育ではないような大学などの学費負担が特別受益として争われることもあります。
このような場合でも、親には子供を扶養する義務がありますので、例えば国公立の大学学費などでそこまで多額の費用にならない場合には、親子間の扶養義務の一環として贈与には当たらないとされる場合が多いと思われます。
相続人間で著しく学費負担に差がある場合、海外の大学に留学している場合、私立医学部に進学して多額の学費がかかった場合など、個別に問題になり得る場合もありますが、学費だと黙示的な持ち戻し免除の意思表示があるということで、最終的に遺産分割で考慮されない場合が考えられます。

3 成人してからの生活費援助

成人してからの生活費の援助は、生計の資本としての贈与にあたるとも考えられます。他方で、成人しても親子間では扶養義務がありますので、成人したからといって扶養する義務がなくなるわけではありません。
このような場合には、生活費の援助は扶養義務を果たしたということであり、義務の履行は贈与(無償であげること)ではありませんので、特別受益には当たらないことになります。
成人した子への援助が扶養かどうかは、資力、社会的地位、生活状況などを総合的に考慮するしかないでしょう。

4 結婚式の費用

親が子の結婚式の費用を出すこともあり、これが特別受益ではないかと主張されることもあります。
しかし、日本では結婚式は家同士の儀式という側面があり、結婚式の招待状も「〇〇家、〇〇家」というように家からの招待とされることも多いでしょう。
このような冠婚葬祭・家の行事の一環として開かれる場合も多いことを考えますと、結婚式の費用は婚姻のための贈与や生計の資本としての贈与とは言えず、特別受益ではないと判断されることが多いようです。

5 親の土地の上に建物を建てて使用している場合

親の土地の上に相続人が建物を建て住んでいる場合、ほとんどは土地を無償で使っているのではないかと思われます。
このような無償の使用を「使用貸借」といいますが、このような使用貸借が特別受益に当たるかどうかが問題になることがあります。
この場合、相続開始の際に使用貸借をしている土地の価値が使用貸借によって減少しており、相続人に使用貸借権があると言えるかどうかが問題になってきます。
一般的には、土地の価値を減少させず、特別受益としても考えないという場合が多いのではないかと思われます。

寄与分の類型・パターン

弁護士 杉浦恵一

はじめに

近年の高齢化に伴い、高齢の親などを(推定)相続人が介護する期間が長くなってきていることが考えられます。介護をする場合でも、被相続人の近隣に住んでいる親族が介護をする場合が最も多いのではないでしょうか。
一部の(推定)相続人やその家族のみが介護をしますと、(推定)相続人間での不公平感が高まり、後の相続の際に遺産分割の方法でもめやすくなると思われます。このような場合、寄与分の制度が用いられることがあります。

ただし、寄与分に関してどのような制度なのか漠然としかわかっていない方も多いのではないかと思われます。

寄与分とは何か

まず民法の条文から確認しますと、寄与分とは民法904条の2第1項で、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と定められています。

この条文の記載からしますと、寄与分が認められる要件として、①「被相続人の財産の維持又は増加について」、②「特別の寄与」、という部分に分割できるのではないでしょうか。

まず、「被相続人の財産の維持又は増加について」という部分ですが、被相続人の財産が維持され(=減少が食い止められ)、または増加しているという結果が必要になってきます。
何らかの行為を行ったものの、その行為が結果を伴わなかった場合、つまり被相続人の財産の状況に影響を与えなかった場合には、寄与分は認められないのではないかと考えられます。

また、「特別の寄与」という部分は、あえて「特別の」と記載されて定められている以上、通常の親族・(推定)相続人として期待される以上の水準での貢献が必要だと考えられます。
民法上、親族間には扶養義務がありますので、そのような扶養義務の程度を超えるようなものが期待されています。

また、被相続人との身分関係によっても、期待される程度が異なることが想定されます。例えば夫婦間であれば、子や孫よりも大きな貢献がなければ寄与分が認められないこともあり得ます。夫婦間の扶養義務・協力義務は親子間よりも強いと考えられ、実際に法定相続分も配偶者は多く定められています。

寄与分が認められる類型・パターン

寄与分が認められるためには、上記のような要件を満たす必要性があります。寄与分が認められる類型・パターンとしては、いくつかのパターンが想定されます。

  1. 家業に貢献したパターン

    無報酬かそれに近い形で、被相続人が行っていた事業・仕事へ協力し、被相続人の財産が増加したパターンが想定されます。

  2. 金銭などを出資したパターン

    相続人から被相続人に対して、金銭その他の財産上の給付をするというパターンがあり得ます。例えば、不動産を買う際の資金援助や何らかの資金援助が考えられます。

    あくまで出資として無償であげた場合が想定され、貸し付けている場合には別途、貸借関係が生じます(被相続人にとっては負債、貸している相続人にとっては債権となります)。

  3. 介護・看護を行ったパターン

    最も多いパターンではないかと思われますが、無報酬かそれに近いような状態で被相続人の介護・看護を行い、被相続人の支出を減少させた(財産の維持に貢献した)というパターンがあります。

    この場合でも、親族としての扶養・協力義務を超えるような特別なものである必要性(職業として介護をしている人と同程度)がありますので、家事を手伝っている程度であったり、被相続人が介護を必要とする程度が低いような場合には、寄与分として認められないこともあります。

  4. 扶養をしているパターン

    被相続人に資力がなく、被相続人へ継続して生活費を渡しているなどの扶養をしているパターンも考えられます。

    この場合、同居して被相続人名義の家を使っているような場合(一定の対価関係が想定される)や、各相続人がそれぞれ一定の扶養をしている場合(特別性に欠ける)は、寄与分としては認められない場合も想定されます。

さいごに

裁判所で寄与分を主張するような場合には、どのようなパターンの寄与分なのかを意識して主張、証拠提出をする必要があるでしょう。

相続人がいない場合の相続手続

弁護士 杉浦恵一

相続人なし

はじめに

 近年の少子化により、相続人がいない状態で亡くなる方が増えているようです。報道機関が裁判所に取材したところによれば、2023年度の相続人がいないことで国庫に入った財産額が約1015億円に達しているということでした。 2013年度の相続人がいないことで国庫に入った財産額が約336億円だったということですので、相続人がいないことで国庫に入る金額は年々増え続けているようです。

 民法で定められた法定相続人の順位は、第1順位が子(などの直系卑属、民法887条)、第2順位が親(などの直系尊属、民法889条)、第3順位が兄弟姉妹(同条2号)という順番になっています。
 被相続人(亡くなった方)に配偶者がいる場合には、配偶者は常に相続人となり(民法890条)、他に相続人がいるか否か、他の相続人が子、親、兄弟姉妹のどれに当たるかで配偶者の法定相続分は異なってきます。

相続人がいない場合の相続手続

 このような相続人が全くいないか、又は相続人の全員が相続放棄をしたような場合には、相続人がいなくなります。
 相続人がいなくなった場合には、亡くなった方の遺産はどのようになるのでしょうか。

遺言書がある場合

 まずは、遺言書がある場合を考えてみます。

 遺言書は、亡くなる方の最後の意思表示ということで、最大限に尊重されるべきと考えられますが、あくまで亡くなる方の財産や祭祀承継など、法的に決められる点については限度があります。

 相続人がいても、いなくても、遺言書を作ることは可能です。
 相続人がいない場合には、相続人以外の誰か(法人、団体も可)に財産を残すという内容にすることができます(「遺贈」といいます)。

 このような遺言があれば、遺贈をされた方(団体)はその遺言の内容に従って財産を受け取ることができますし、内容によっては遺贈を受けないことも可能です。

 ただし、遺言書の場合には、その遺言が必ずしも見つかるとは限りません。
 自筆の遺言があっても、一人暮らしなどで見つけられず、いずれ廃棄処分にされてしまう可能性はありますし、自筆の遺言を法務局に預けていたり、公証役場で公正証書遺言を作っていた場合でも、誰も把握していなければ検索されずに終わってしまう可能性もあります。

相続人がいない(はっきりしない)場合

 相続人がいない(はっきりしない)場合には、民法上、相続財産清算人を選任することになります。

 民法951条では、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」とされ、同952条では、「前条の場合には(注:相続人があることが明らかでないとき)、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。」とされています。

 そのため、相続人ではなく、遺言で受遺者にも指定されていないが、一定の利害関係がある場合には、裁判所に相続財産清算人の選任を申立てし、相続財産清算人に財産処分などをしてもらうことが考えられます。
 この際に、財産があることが不明な場合や財産が少ない場合には、裁判所に予納金を納める必要がある場合もあります。

 相続財産清算人の選任を申し立てるのは、債権者(住居が明け渡されなくて困っている賃貸人など含む)や、特別縁故者の可能性がある方が多いようです。

 相続財産清算人は、選任されますと相続人を探しつつ、財産を調査し、財産の処分などを行っていきます。
 そして、相続人が見つからない場合には、負債があれば債権者に弁済する等をして、残りを国庫に納めます。

 このような手続きを経て国庫に入る金額が、近年では1000億円超になっているそうです。

特別縁故者の相続

 また、相続人がいない場合でも、特別縁故者だと主張する方がいれば、一定の期間内であれば財産を分与するように申し立てることが可能です。

 民法958条の2では、「前条の場合において(注:相続人としての権利を主張する者がいないとき)、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」とされています。

 つまり相続人ではなくても、被相続人の療養看護に務めたとか、何らかの特別の関係にあった場合には、遺産を分与するように求められます。
 例としては、相続人ではない血縁関係が多少離れた親戚や内縁関係の方が多いようです。

 ただし、どの範囲で分与するかは裁判所の裁量と考えられていますので、必ずしも全部が分与されるとは限らず、一部しか認められない場合や全く認められない場合もあります。

さいごに

 このように、今後は相続人がいないという事例が増えていくことが予想されますので、そのような場合も想定をしておく必要があるでしょう。

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