Aさんは、父親が亡くなったことで遺産分割をしようと戸籍謄本を収集していました。相続人が兄弟のみだと思っていたところ、戸籍謄本を取り寄せると、前妻との間に知らない兄弟がいることが分かりました。連絡方法などが分からないということで、当事務所に相談にいらっしゃいました。
当事務所では、面識のない兄弟の住所を調査し、手紙を送ったところ、連絡がつきましたので、法定相続分よりも多少少ない金額で交渉して、遺産分割をすることができました。
約2か月
被相続人が亡くなった場合に相続人を調べると、過去に離婚等をしていて、知らない兄弟姉妹が見つかることがあります。遺産分割は相続人全員が関わることが必要ですので、面識がないとしても何とか協議に参加してもらわざるを得ず、大変になることがあります。このような場合、遺言があれば、このような手間を回避できる場合もあります。
自筆証書遺言は、民法968条によって厳格に方式が定められ、同条の方式を満たさない遺言は無効とされます。しかし、この無効が、遺言書全体が無効なのか、要件を満たさない部分が無効なのかは、条文には明確に書いていません。本稿では、遺言の無効について判断された判例・裁判例を紹介します。
民法968条は、自筆証書によって遺言をする際には、遺言の全文、日付及び氏名の自書をし、押印をすること等の方式を定めています。この方式を満たさない遺言は、原則として、遺言全体が無効になると考えられています。
しかし、令和3年1月18日の最高裁判決は、「しかしながら、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。」と判示し、形式的な瑕疵がある場合、直ちに遺言全体を無効とする姿勢を否定しています。遺言の方式違反がある場合に遺言が無効になるのか、無効になるのであればどの部分が無効になるのかについては、事例ごとの判断が必要になる場合があります。
最高裁は、「自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法九六八条一項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。」と判示しました。
遺言書は、作成日の前後で効力が変わるので、日付は重要な記載です。厳格に書かなければ、遺言全体が無効になります。
亡くなった人が生前重要書類を保管していたトランクから、全文、日付及び署名が全て自筆され、押印がされた遺言書が見つかりました。この遺言書には加筆や訂正と思しき記載が多数あったため、下書きの可能性もあり、効力が争われました。
東京高裁は、「いずれにしても、本文に加えられた加除、訂正は、民法に定める方式に適合しないものであるから、これによっては、本件遺言の内容につき何らの変更も生ずるものではなく、その加除、訂正等の書込みがなされた結果、当該部分につき本文自体が判読不可能となるなど部分的にもせよ毀滅されたのと同じ影響があったと認められる場合には、当該部分に限って効力が失われたと解する余地があるが、その判読が可能である限りにおいては、当該遺言の効力は、その書込みによって影響を受けるものではないというべきである。本件遺言書においては、書込みにより本文自体につき判読が不能となった部分は存在しない。」と判示し、遺言書の本文部分を有効としました。
平成30年の民法改正により、それまでは全て自筆でなければならなかった遺言のうち、財産目録だけは、ワープロ打ちでも有効な遺言とされることになりました。ただし、作成したページごとに、署名押印が必要です(民法968条2項)。
この署名押印がないワープロ打ちした財産目録がある場合の遺言の効力が争われた事例です。
札幌地裁は、「もっとも、自書によらない財産目録を添付する場合には、その目録の毎葉に署名押印をしなければならないこととしており、この規定の趣旨は、遺言者以外の者の作成した目録が添付されてしまうことの防止にあるものと解される。このような法の規定及びその趣旨に照らすと、自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がない場合には、当該目録自体は無効になるものといわざるを得ない。」とし、目録は無効としながらも、「このような形式的な事項にすぎない財産目録の方式に瑕疵があることを理由に、直ちに自筆証書遺言の全部が無効であるとするのは、遺言者の真意の実現を阻害するものに他ならない。」「自筆証書遺言において、自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がなく、当該目録自体は無効となる場合であっても、当該目録が付随的・付加的意味をもつにとどまり、その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るときには、当該自筆証書遺言の全体が無効となるものではないというべきである。」として、遺言自体の効力は有効としました。
遺言書の方式違反があった場合に、無効になるか否かは事案によって異なり、また裁判所の判断であっても学説から疑問を呈されるものもあり(花押を押印と認めなかった、最判平成28年6月3日など)、裁判官が違えば判断が異なったのではないか、ということもあります。
遺された相続人間で紛争が生じることを避けるために遺言書を書いたとしても、方式に瑕疵があると、遺言の効力をめぐって紛争が生じることになります。
自身の死後の紛争を避けるために、方式違反のない遺言書を専門家に相談して作成することもご検討ください。
公正証書遺言を遺し、父が亡くなりました。「遺言執行者として前記長男○○を指定する。」という文言がありました。私が遺言執行者に指定されたようですが、具体的に何をしたらいいのでしょうか?
遺言執行者の権限の内容をめぐる紛争を防止し円滑に遺言の執行をするため、民法改正で以下の規定が作られました。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
※旧法でも遺言執行者が財産目録を作成してこれを交付すべき義務はありましたが、それに加えて、遺言の内容を相続人に通知しなければならないことになりました。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
※相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できないことになりましたので、その結果、遺言執行者として、不動産について、特定財産承継遺言に従った相続登記を申請することができることになりました。
ただし、民法改正の施行日(令和元年7月1日)より前に作成した遺言には適用されず、遺言執行者による相続登記はできませんので、注意が必要です。その場合は従来どおり、所有者となる相続人からの申請で相続登記をすることになります。
前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
※特定の相続人に預貯金債権を相続させる旨の特定財産承継遺言がされた場合には、遺言執行者に預貯金全部の払戻しや解約の権限があることが明確化されました。ただし、預貯金債権の一部だけが特定財産承継遺言の目的となっているに過ぎない場合には、他の相続人の利益を害する恐れがあることに鑑み、解約の権限まではないことになりました。
預貯金以外の金融商品については、解約の時期によっては他の相続人に不利益が生じることも想定されるため、そこまでを遺言執行者に委ねているかが問題になりますが、これまでどおり解釈によることとなりました。
当事務所を御利用いただいたお客様へのアンケートから、掲載許可をいただいたものについてご紹介いたします。
弁護士 杉浦恵一
※こちらの記事は2024年4月までの情報を元に作成しています。執筆時点以降の事情変更により記事の内容が正確でなくなる可能性がございます。
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遺言の種類として、自筆の遺言や公正証書の遺言など複数ありますが、遺言があるからといって必ずしも見つかるとは限りません。
法務局が預かっていたり、公正証書遺言であれば、通常は検索することで見つかりますが、自宅に置かれていたり、第三者に預けられていたりすると、遺言書が見つからないこともあり得ます。
そのような場合には、相続人は遺言書が存在しない前提で遺産分割をすることになるでしょう。
それでは、相続人が遺産分割をしてから、長期間が経って遺言書が見つかった場合には、どのようになるのでしょうか。
この問題を扱った事件として、最近の令和6年3月19日、最高裁判所で判決が出されました(令和4年(受)第2332号)。
①事件の概要
こちらの事件の概要ですが、被相続人が平成13年に、甥や養子を含めて遺産を等しく分与する内容の自筆証書遺言を作成したところ、平成16年に被相続人が亡くなり、その後に唯一の法定相続人であった養子が、その自筆証書遺言の存在を知らない状態で、不動産を相続したと思って不動産の占有を開始し、相続を原因として所有権移転登記をした、という事案でした。
その後、いつかは不明ですが自筆証書遺言が検認されたと思われ、平成31年に裁判所から遺言執行者が選任されたところで、唯一の相続人であった養子が、取得時効を援用したという流れです。
②事件の争点
ここでの争点は、民法884条に定められている相続回復請求権の消滅時効が完成していない時点で、その時効完成前に取得時効によって不動産の持分権を取得することができるか、という内容でした。。
民本884条の相続回復請求権ですが、以下のような条文が定められています。
「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。」
他方、取得時効は民法162条で、以下のように定められています(今回は適用されている2項を以下に引用します)
「2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
期間だけ比較すると、相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知った時から5年間、又は相続開始の時から20年間で消滅します。
そうしますと、今回の事案では、相続権を侵害された事実をしった時点がいつか不明確ですが、相続の発生(=被相続人が亡くなった時点)が平成16年ですので、遺言執行者が選任された平成31年の時点では、まだ20年間は経っていなかったことになります。
他方、取得時効は、所有の意思の存在、平穏かつ公然と占有していること、占有の開始時に善意、無過失の場合に、10年間の占有で所有権等の権利を取得できるという制度です。
そのため、平成16年に被相続人が亡くなった時点から占有をしていれば、平成26年が経過した段階では少なくとも10年が経っていることになり、取得時効が成立しそうです。
③最高裁の判断
このように抵触する期間がある場合に、どちらが優先されるかというのを、今回の最高裁判所判決では判断されました。
最高裁判所の判決では、結論として、真正な相続人(包括受遺者)の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、その相続人が相続した財産の所有権を取得時効により取得できると判断しました。
理由としては、民法884条の相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることであるため、取得時効の要件を満たしたのに、相続回復請求権の消滅時効が完成していないという理由で取得時効が妨げられると、その趣旨(早期かつ終局的な法律関係の確定)に整合しない、という理由です。
このように、はっきりしなかった問題に関して、最高裁判所の判断が出されたことで解決が図られましたが、遺言があれば、可能な限り早期に見つけ、手続きを行った方がいいでしょう。
依頼者 Aさん
年齢 80代
一人暮らし
80代のAさんは、一人暮らしをするほどお元気でしたが、疎遠な相続人ではなく、お世話になった方に財産を遺したいとのことで、弊所にご相談にいらっしゃいました。
Aさんは、争いになることなく確実に遺言が執行されることを強く希望されていましたので、公正証書という方式をとり、身近な方を遺言執行者にすることにしました。
また、Aさんは、お元気といえども足腰が弱く、ご高齢であったことから、なるべく弊所での打ち合わせの回数を少なくしたいとのご希望がありましたので、郵送やメールの方法で、何度か文案を送り、ご意見をお聞きして修正をする作業を行いました。
Aさんは、公正証書を作成する当日、とても緊張されていましたが、事前に何度か練習することで、公証人からの質問にもうまく答えることができました。
公正証書を作成し終えた時、Aさんは本当に安心してくださいました。
約1か月
弁護士 杉浦恵一
相続が発生した場合に、遺言等がなく、遺産分割をする必要がある場合には、相続人全員で協議する必要があります。
相続人のうち1人でも欠けていると遺産分割をすることができないことが原則です。
例えば、相続人の1人が高齢で認知症になっていて、自分で財産の処分について判断ができない場合であれば、そのままでは遺産分割ができません。 このような場合には、成年後見人を選任し、認知症の方に代わり、成年後見人が代理して遺産分割の協議に参加することになります。
遺産分割の際に、相続人が破産手続の準備中であったり、個人再生手続の準備中であるような場合も見受けられます。
相続人の中には、借金が多く、遺産を受取っても全て借金の返済に充てざるを得ないような方がいる場合もあり得ますが、このような法的手続をしている、または準備をしているような場合には、どのようにすればいいのでしょうか。
まず、個人再生の場合から考えます。
個人再生とは、借金の一部を免除してもらい、一部を分割で支払っていく、という債務整理の手続きです。
個人再生手続は裁判所で行われますが、個人再生の手続中でも財産の処分などは個人再生をしている債務者が行うことが可能です。
民事再生法では、特に再生債務者の相続放棄や遺産分割協議を禁じるような規定はありませんので、相続放棄や遺産分割協議に参加すること自体は可能だと考えられます。
相続放棄に関しては、民法上の詐害行為取消権に関する裁判例(最高裁判所 昭和49年9月20日判決)で、相続放棄のような身分行為は、相続人の意思からも、法律上の効果からも、既得財産を積極的に減少させる行為というよりは、むしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないことや、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでなく、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、不当であるとして、取消を認めませんでした。
このような裁判例があることから、一般的には、個人再生手続の場合には、相続放棄をすることは自由だと考えられています。
ただし、相続放棄をすることは自由であるとしても、遺産分割で再生債務者が相続しないという遺産分割をしたような場合には、結果としては同じですが、否認されうる行為として、個人再生で弁済すべき金額に本来の相続財産分が加算されると考えられていますので、注意が必要です。
この結果、弁済額が多額になり、個人再生が失敗しますと、最終的には遺産分割協議が否定される可能性も出てきます。
(最高裁判所 平成11年6月11日判決では、詐害行為取消の事案ですが、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象になり得ると判断されています)
次に、破産の場合にはどうでしょうか。
相続放棄が身分行為であるという点に変わりはありませんが、破産手続の場合には、原則として破産手続開始決定の時に存在する財産は、裁判所により選任された破産管財人が管理するということになっています。
そのため、破産手続開始決定後に相続が発生した場合には、破産管財人の管理の対象外になりますので、相続放棄するか否かなどは自由になってきます。
破産手続開始前に相続が開始した場合ですが、正式に破産手続が開始する前には、まだ相続放棄や遺産分割をすること自体は可能です。
ただし、破産手続開始の直前に相続放棄や遺産分割をした場合には、その効力を否定される可能性がありますので、注意が必要です。
相続放棄は身分行為のため、どこまで否認することが可能なのかは何とも言いにくいところですが、必ず相続放棄の効力が認められるとは限りません。
なお、破産手続開始前に相続が開始し、相続放棄や遺産分割をしない状態で破産手続が開始しますと、相続財産に関する権利は破産管財人が管理、処分することになりますので、遺産分割協議は破産管財人とすることになります。
例えば、かなり前に相続が発生したが、自宅不動産(土地や建物)の遺産分割をしていなくて、そのままにしていたような場合では、後になって相続人のうちの1人が破産し、破産管財人から不動産の持分の買い取りを求められることがありますので、注意が必要でしょう。
このように、相続の場合でも相続人の破産・個人再生といった債務整理手続きが影響をしてきますので、そのような兆候があれば、早めに対処した方がいいでしょう。
Aさんから、生前の交流がない方が亡くなり、関係者から、Aさんが相続人の一人であるとの連絡がきたとのことで、弊所に相談にいらっしゃいました。弊所がAさんから遺産分割協議の依頼を受けたのち、別の相続が発生し、どちらの相続についても相続人は、Aさん、Bさん、Cさんの3名でした。
本件では、二つの相続について、ともに相続人と生前に交流がない方が亡くなったため、それぞれの相続について、亡くなった後の各種手続きを行うとともに、遺産を調査することから始める必要がありました。Aさんと弁護士とで、亡くなった方の自宅を捜索し、遺産を整理しました。また、金融機関に調査をかけて遺産を整理するとともに、負債も調査しました。大変な作業でしたが、遺産を整理する作業が終わってからは、相続人3人で遺産分割を行い、特段争うこともなく、協力して遺産を換価しました。
本件は、相続人間の争いは少なかったですが、遺産の調査や遺品の整理が大変な事案でした。また、不動産の売却や相続税申告も必要でしたので、弊所の司法書士や税理士とも協力して解決にあたりました。複数の士業がいる弊所のメリットを最大限に活用することができた事案だと思います。
弁護士 杉浦恵一
※こちらの記事は2023年7月までの情報を元に作成しています。執筆時点以降の事情変更により記事の内容が正確でなくなる可能性がございます。
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近年、相続の手法の1つとして「信託」が注目されています。
信託により財産を誰かに託すという方法があり、財産を移転するという意味では相続と同じような財産権の承継が可能です。
このような「信託」の場合でも、遺留分を侵害することはあるのでしょうか。
この問題を考える上で、まずは「信託」がどのような制度か確認する必要があるでしょう。
「信託」とは、信託法に定めのある契約・制度の一種であり、信託法2条1項では、以下のように定義されています。
「この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。」
この定義で出てくる「次条各号に掲げる方法」とは、①契約、②遺言、③信託の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で記録する方法、の3通りがあります。
一般的には、契約や遺言で信託をすることが多いとは思われます。
信託法2条1項の定義では、「信託」とは何か非常に分かりにくい条文になっています。信託では、「委託者」、「受託者」、「受益者」という立場が主にあります。
「委託者」とは、「受託者」に対して財産を譲渡等し、「受託者」に対して一定の目的に従って財産の管理・処分、目的の達成のために必要な行為をするように指示、契約をする立場です。
「受託者」とは、「委託者」から財産の譲渡等を受け、一定の目的に従って財産の管理・処分、目的の達成のために必要な行為をする義務を負う立場です。
「受益者」というのは、「信託」の目的に基づいて一定の利益(受益権)を得る立場のことを指します。
簡単に要約すれば、受託者は委託者から一定の目的の下、財産権の譲受などをされ、受益者に対して、信託で定められた利益を渡す、といったような内容です。
例えば、相続では所有権を移してしまうと、相続で所有権が移転された財産は、原則として相続人や受遺者が自由に処分することが可能となります。
>そうしますと、生前の被相続人の意思に反した処分がなされてしまう可能性が否定できません。
このような状態は、財産権が移転している以上はやむを得ないものですが、「信託」を使うことによって、例えば、不動産は受託者の名義になるが、それ以上は処分できず、相続人には不動産から生じる利益(例えば賃料など)だけ分配することができる、といった方法もあり得ます。
それでは、このような一部の相続人に受益権を与える信託により、遺留分を侵害することはないのでしょうか。
結論的には、裁判例でこのような信託による遺留分侵害を認め、受益権を対象に遺留分減殺請求(民法改正前の事件のため)を認めた裁判例があります。
東京地方裁判所 平成30年9月12日判決では、信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないという理由で、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである、とされています。
そのため、一部の相続人にだけ受益権が設定されているような信託があったような場合には、移転した不動産や財産権ではなく、受益権に対して遺留分減殺請求をするということが示されました。
この判決の後に民法改正があり、現在は遺留分減殺請求ではなく、遺留分侵害額請求として金銭請求に一本化されていますので、この判決の当時は、遺留分減殺の対象が不動産等の物なのか、受益権(権利)なのかで違いがありましたが、法改正後はいずれにしても金銭請求になっていますので、あまり大きな違いはないかもしれません。
このように、信託を使っても遺留分は侵害することになりそうですので、仮に信託を設定する場合であっても、将来の遺留分に気をつけた方がいいでしょう。
※なお、上記の判決では、他にも遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用した場合には、そのような信託契約が公序良俗に反して無効であると判断されていますので、この点も注意は必要でしょう。
Aさんは、親が亡くなったため、兄弟と遺産分割の話し合いをしようとしましたが、兄弟が返答をせず、連絡が取れませんでした。そのため、当事務所に相談にいらっしゃいました。
当事務所では、代理して兄弟に連絡をしましたが、それでも連絡が取れなかったことから、速やかに遺産分割調停を申立てしました。
遺産分割調停では、双方から特別受益の主張が出たり、Aさんから寄与分の申立てをするなど、話し合いでの解決が困難でした。
そのため、調停は不成立となり、審判に移行し、最終的にはAさんの寄与分を認定し、それを前提に遺産を分割する審判が出されました。
約2年
相続人の中に連絡が取れない相続人がいる場合には、速やかに遺産分割調停を申し立てるなど、裁判所の手続に乗せた方が結果として早く解決する可能性があります。ただ、遺産分割事件はかなり長期化することもありますので、基本的には早めのスタートが肝心でしょう。
より良いサービスのご提供のため、相続の取扱案件の対応エリアを、下記の地域に限らせて頂きます。
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